ペリカン万年筆 国枝 健
ペリカン万年筆 国枝 健
終活のひとつに 机の引出しを整理
一本の万年筆が出てきた
二十二歳の時 新聞社に職が決まり
祝いに 母がくれたもの
記者講習が終わり
毎日記事を書くなかで
自分に納得いくものを
母からもらった万年筆で書いてみた
デスクに手渡すと
「ペリカンだな!」
読みもしないで
書いた原稿を ビリっと破り
脇の大きなゴミ箱に ポイ! と捨てた
「説明しなくても判るんだ
甘やかせのママが
祝いに買ってくれたものだな!」
デスクは ニヤニヤ笑っていた
何も話してないのに なぜ判るのか
私は ケゲンな顔でデスクを見た
「判るんだよ!」
また笑った
「親に見せられる記事を
早く書けるようになれ!
母親に良く礼を言っておけ!」と
ゴミ箱から 破れた原稿用紙を
取り出して 突っ返された
私は「わかりました」
うなずくしか無かった
五十六年経って 未だに
ペリカン万年筆を 使う気にならない
もっぱら四百字の原稿用紙に
2Bの鉛筆で 書きなぐっている
京浜詩派 第229号より
終活のひとつに 机の引出しを整理
一本の万年筆が出てきた
二十二歳の時 新聞社に職が決まり
祝いに 母がくれたもの
記者講習が終わり
毎日記事を書くなかで
自分に納得いくものを
母からもらった万年筆で書いてみた
デスクに手渡すと
「ペリカンだな!」
読みもしないで
書いた原稿を ビリっと破り
脇の大きなゴミ箱に ポイ! と捨てた
「説明しなくても判るんだ
甘やかせのママが
祝いに買ってくれたものだな!」
デスクは ニヤニヤ笑っていた
何も話してないのに なぜ判るのか
私は ケゲンな顔でデスクを見た
「判るんだよ!」
また笑った
「親に見せられる記事を
早く書けるようになれ!
母親に良く礼を言っておけ!」と
ゴミ箱から 破れた原稿用紙を
取り出して 突っ返された
私は「わかりました」
うなずくしか無かった
五十六年経って 未だに
ペリカン万年筆を 使う気にならない
もっぱら四百字の原稿用紙に
2Bの鉛筆で 書きなぐっている
京浜詩派 第229号より