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小松製作所 分工場    艀 参三

あの戦争のころ・5
小松製作所 分工場    艀 参三

「今年の秋から新しい工場へゆく」
国の秘密だから 名称は教えない
駅の東にある田圃の一角が埋め立てられ
幾棟かの建物が出現した

小松製作所の 新事業だ
動員された初日には
大雑把に二つの班に分けられて
私たちは 新設される
鋳物工場に 配置される

まだ建設中の工場では
旋盤の組に廻された 仲間たちが
すぐにネジ切りの作業を教えられ
来る日も来る日も ネジを切らされた

新しい柱が立ち上がり
それを組み合わせるためのネジだ
工場を建てながらの作業という訳だ
新工場はかなり大きな建物だ

私ともう一人の製図のうまい若林は
罫書き の仕事を与えられる
大きな分厚い平盤の上で
製図を読んで 鋳物の塊りに 線を引く

その線をなぞって 旋盤が廻る
ただの鋳物が やがて型を産み出して
しっかりとして バルブ辨に
仕上がっていくのだ

が、ボルネオ辺りの油田を
占領したのは 確かに昭和十七年の五月
今は昭和十八年の秋だというのに
バルブ辨を今頃造っていて良いのだろうか

ミッドウェイの海戦の後
軍艦マーチがならなくなった
あの勇壮な行進曲の後には
必ずといっていい大戦果があったものだ

あの世界最大の戦艦は
「武蔵」といい「大和」といい
華々しい海戦を 見せてもくれず
何処に潜んでしまったのか

おくればせ乍ら 僕たちは
国の命ずるまま 作業にはげむ
「もっと ケガキの針を締めてくれなきゃ
ホラ みろ 旋盤にかけると軸がブレる」

班長の叱声に その時は緊張するが
所詮 子どもの指の力は弱いものだ
鋳造から廻ってくる鋳物の数も
途切れ途切れで「こんなことでいいのかなァ」

十一月のある日の空は
抜けるほどに 澄み切っていた
南に見える野坂の山ひだが
数えられる日の 昼前だった

「名古屋が空襲でやられている」
名古屋といえば上級生たちが動員されている
確か〈愛知時計〉という工場で
戦闘機の増産体制がとられていた

高度は確か一萬メートルというのに
五糎位の巨大な飛行機が
悠々と北を指して進んでいる
目をこらすと その尾翼の辺りに

ゴマ粒ほどの小さな飛行機が
上下に移動して まつわりついている
そのうち体当たりでもしたのか一瞬光り
B29は平然と所定のコースを飛んでいる


京浜詩派 217号より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

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