引込線工事 艀 参三 (京浜詩派216号より)
あの戦争のころ・4
引込線工事 艀 参三
アメリカでは とてつもない飛行機を
つくり出したそうだ
そんな話を聞いたのは
新しく鉄道線路の 引込線をつくる
作業に かり出された頃だ
空襲は必ずある
いざという時は 貨物列車を分散させて
貴重な資源を 守らねばならぬ
そのための 引込線の作業
一時間おきに コークスが
無蓋車で 運ばれてくる
それを引込線に導入して
少しずつ 線路を四方に延長する
何をさて置いても やらねばならぬ
北陸本線の 関西へ分岐する
要の位置に 敦賀がある
そのあちこちに 退避線を造ってゆく
一時間ごとに コークスを満載して
入線してくる 無蓋車を
五度の傾斜のある 引込線に
押し込んで その先端を延ばしてゆく
「もうすぐ次が来るぞ! 急げ急げ」
班長は ノルマの完遂をめざして
スコップを 振り回して
班員の尻を叩く
休む間もない 作業はつらい
俺たちを 何だと思って コキ使う
まだ 中学の二年生だというのに
まして体力のない私には
苛酷な作業の連続だ
ひるの時間は 休憩をかねて
たっぷり一時間 与えられているのだが
心づくしの茗荷入りの味噌汁も
こう毎日では あきてしまう
成人してから三十年ばかり
茗荷と聞くだけで
背中がザワザワしたものだ
あの田舎びた 素朴な食べ物が嫌いだった
子供の力も 馬鹿にしたものではない
一つの分線を 五・六名の中学生で
造らせようとした無茶な計画も
何とか 秋までには 完成した
試験走行だと言って
連結された貨車群が
一輌ずつ 切り離されて
所定の位置に 固定される
惰性のスピードで
入線してくる 貨車たちが
予定の線上で ピタリと止まる
思わず「万才 万才」だ
この引込線は
いまはもう使われていないが
昭和二十年の七月十二日夜
「また機雷投下」と思った市民たちを
恐怖の底に 落し込んだ
あの空襲時に
立派に役目を果したと 伝え聞いた
引込線工事 艀 参三
アメリカでは とてつもない飛行機を
つくり出したそうだ
そんな話を聞いたのは
新しく鉄道線路の 引込線をつくる
作業に かり出された頃だ
空襲は必ずある
いざという時は 貨物列車を分散させて
貴重な資源を 守らねばならぬ
そのための 引込線の作業
一時間おきに コークスが
無蓋車で 運ばれてくる
それを引込線に導入して
少しずつ 線路を四方に延長する
何をさて置いても やらねばならぬ
北陸本線の 関西へ分岐する
要の位置に 敦賀がある
そのあちこちに 退避線を造ってゆく
一時間ごとに コークスを満載して
入線してくる 無蓋車を
五度の傾斜のある 引込線に
押し込んで その先端を延ばしてゆく
「もうすぐ次が来るぞ! 急げ急げ」
班長は ノルマの完遂をめざして
スコップを 振り回して
班員の尻を叩く
休む間もない 作業はつらい
俺たちを 何だと思って コキ使う
まだ 中学の二年生だというのに
まして体力のない私には
苛酷な作業の連続だ
ひるの時間は 休憩をかねて
たっぷり一時間 与えられているのだが
心づくしの茗荷入りの味噌汁も
こう毎日では あきてしまう
成人してから三十年ばかり
茗荷と聞くだけで
背中がザワザワしたものだ
あの田舎びた 素朴な食べ物が嫌いだった
子供の力も 馬鹿にしたものではない
一つの分線を 五・六名の中学生で
造らせようとした無茶な計画も
何とか 秋までには 完成した
試験走行だと言って
連結された貨車群が
一輌ずつ 切り離されて
所定の位置に 固定される
惰性のスピードで
入線してくる 貨車たちが
予定の線上で ピタリと止まる
思わず「万才 万才」だ
この引込線は
いまはもう使われていないが
昭和二十年の七月十二日夜
「また機雷投下」と思った市民たちを
恐怖の底に 落し込んだ
あの空襲時に
立派に役目を果したと 伝え聞いた