無念の牛たち 磐城葦彦 (京浜詩派216号より)
無念の牛たち 磐城葦彦
あの声を 聞いたか
地の底を這う うめきを 聞いたか
いくつもの牛舎で
ばたばたと倒れていく牛たち
激しい揺れにも 耐えながら
地鳴りして襲ってきた力にも
怯まなかった牛たち
だが あれから
放射能汚染地域に放置された揚句
どこへも 避難できないまま
一気に 抹殺の対象とされてしまい
牛舎で 牧草地で
死にいそぐのを 拒んでは 狂気の沙汰
暴れまわって逃げようとしたが
逃げたのは にんげんたち
あたりは 一面の無人の荒野
生き残った牛たちは
生と死の境界で 遮られ
行く先を失い 見捨てられた 虜囚
立ち入り禁止の危険地帯のなかで
日が日を重ねるたびに
飼料もなく 飢えをしのごうと さすらい
やがて 衰弱したからだをよせあい
息の根を断ち 逝った
あの大地震から 五年
進化がもたらしたもののけの放射能
ものいわない牛たちの遺体はその証し
いまもいっこうに減らない放射能線量の濃度
いずれ にんげんも 冒されていくだろう
無念の牛たちの怨嗟の叫びが
葬送の鐘を鳴らそうと 風が運んでくるとき
その無念の連鎖が 増殖していく
あの声を 聞いたか
地の底を這う うめきを 聞いたか
いくつもの牛舎で
ばたばたと倒れていく牛たち
激しい揺れにも 耐えながら
地鳴りして襲ってきた力にも
怯まなかった牛たち
だが あれから
放射能汚染地域に放置された揚句
どこへも 避難できないまま
一気に 抹殺の対象とされてしまい
牛舎で 牧草地で
死にいそぐのを 拒んでは 狂気の沙汰
暴れまわって逃げようとしたが
逃げたのは にんげんたち
あたりは 一面の無人の荒野
生き残った牛たちは
生と死の境界で 遮られ
行く先を失い 見捨てられた 虜囚
立ち入り禁止の危険地帯のなかで
日が日を重ねるたびに
飼料もなく 飢えをしのごうと さすらい
やがて 衰弱したからだをよせあい
息の根を断ち 逝った
あの大地震から 五年
進化がもたらしたもののけの放射能
ものいわない牛たちの遺体はその証し
いまもいっこうに減らない放射能線量の濃度
いずれ にんげんも 冒されていくだろう
無念の牛たちの怨嗟の叫びが
葬送の鐘を鳴らそうと 風が運んでくるとき
その無念の連鎖が 増殖していく