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淡い想い   佐々 有爾

淡い想い   佐々 有爾


五時頃起きだして
朝食をとり
食休みをしながら
矢井田瞳&小田和正の
「恋バス」を聴いていた。
月刊MVPを頂いてから
一夜明けて
改めてさとみさんの僕への手紙が気になった。
さとみさんに対してこんな気持ちになったのは
初めてです。
BGMはユーミンにかわった。
僕はギャラリークーカに移籍中だが
コロコロと職業を変えているわけじゃない。
油彩からアクリルに画材が変更ただけ
さとみさんと一緒に過ごした日々が
とても懐かしい。



京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

孤愁   佐々木 和善

孤愁   佐々木 和善


私より一〇歳上の 兄がいた
八月五日あの世に旅だった 享年七四
色々あっても 世間なみの暮らしをしていた
独り身になり 青梅に居たとき自転車で
北海道から九州へ あてもない旅に出た
なんで世間が嫌になったのか 判らない
むろん野宿であった

ほどなく長崎で発見され
警察のやっかいになった
愛知県の義兄の所に 電話があり
しばらく姉の夫の元で 厄介になっていたが
半年ぐらいたって 平塚に来てもらった
私もリストラにあい いい潮時と引き取った
五五歳で なんとか職探しに走り廻った
伊勢原の会社へ面接 兄は職にありつけた
ほっとしたある日 
自転車で転び打ち所が悪い
頭がおかしくなり 兄は職を失った
年金を もらえる年であった
なんとか暮らしていけると思い
ふるさとの宮城県へ 帰っていった

ほどなく グループホームへ入居
アルツハイマー病 と言われる
九年ぐらいは そこで厄介になり
特別養護老人ホームへ移った
自分がだれで どこにいるかも判らない
兄弟のことも判らない
食事をするのがやっと あとは寝ている
急に 病院に行くことになった
兄はもう長くはない と告げられ
兄は苦しまず 安らかな眠りについた

私も やっと自由になれる
男では 私ひとりになり
まさしく孤愁の身である



京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

裏岩手連峰縦走   小泉 克弥

裏岩手連峰縦走   小泉 克弥


1.三ツ石山荘

三ツ石山荘に着いた時は もううす暗くなっていた
ごろんごろんの岩の急坂をやっとの思いで辿り着い  
 た

幸いにも 小屋には我々三人だけ
遅く着いたので 寝るまでには時間がかかると気にしていたが
自分達だけなので ホッとした

息子たちが炊事の用意で水場行った後
着替えて小屋の玄関ポーチに出てみた
息を飲む満天の星
空の低い所に 北斗七星が寝そべる形で出ていた
上から下へ流れるような形しか知らなかったので驚いた
天の川が濃く まさにミルキーウェイ
流れ星が 一つ二つ流れた


2.岩手山へ

ああ もう足が進まない
坐り込んで 行く手を見上げる

足が痛い 腰が痛いわけではない
気持ちがなえているのだ
体力の限界とはこういうことかと思った

山は歩かなければ目的地に着かない
何時までもへたり込んでいられない
心を奮い立たせて 重く足を運ぶ
ロープにつかまっての急登
なんでこの山はこんなに急な登りばかりなの
ブツクサ心に呟く

それでも五時には岩手山八合目避難小屋に着く
三ツ石山荘出発から一一時間
やっとの思いで辿り着いた

小屋の前には豊富な水場
この冷水で冷麦をキュッとしめて食べたかったのだ
息子たちの若い力のお陰で
重量を気にせず持って来られた
山の冷水で冷え冷えの強い腰
その喉ごしのよさ
おかげで体ごと冷え切ってしまった
長男持参のウイスキーをお湯割りにして
体が温まってくる
チビチビやりながら 三人でこの三日間を振り返る

茶臼口から八幡平―大深岳―三ッ石山―岩手山の
裏岩手連峰縦走も 明日御神坂コースを下って完結
全長 約五〇キロ 山中三泊
去年の八幡平―秋田駒―三国温泉コースを含めて
この山域はほぼ卒業だ
残るは 岩手山の鬼ヶ城コース
いつか網張温泉のリフトを使って辿って見たい


エピローグ 人はなぜ山に登るのか

人はなぜ山に登るのか。この問いに対して、エベレストの初登頂を成し遂げたとされるマロリーは、そこに山があるから、と答えたという。
旅は、非現実への脱出である。現実の生活を離れ、リラックスし、充電する事が、旅の目的である。
しかし、山は、そこに行くとどんな風景が待っているのか、果たしてそこまで自分は辿り着けるかという、好奇心と挑戦の精神である。だから、旅の終わりの日には、ああまた明日から仕事か、という心の負担が待っているのに、山の場合は、次はどこへ行こうという、新しい意欲に満たされる。
年を取ると、体力は衰える。ガイドブックのコースタイムの2倍から3倍の時間がかかる。でも、自分にもこのコースを踏破できるという思いは強い。だから行く気になる。ただ、重い荷物は担げないから、息子という気兼ねのない同行者の支援を頼んで出かかることになる。
老いたる、体力の衰えた親につきあう息子達には、負担の重い役目だ。遅々たる歩みに文句も言わず、しんがりを務めてくれることには、ただただ感謝する。今年は二男も沖縄から参加してくれたので、心強かった。
来年は昔馴染んだ南アルプスを目指したい。  山は標高2800メートルを超えると格段にキツくなる。毎月一度位はトレーニング山行をし、少しは息子の負担を軽くしたい。


京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

体に投資する ―鍼を打つ    府川 きよし

体に投資する   ―鍼を打つ    府川 きよし

腰痛 左下腿の痛み しびれが治らない
なんとかしないと 私の体調不良はつづく
整形外科医は レントゲン写真を見て
 一番下にある第五腰椎が つぶれている
 坐骨神経痛だ 私には治せません
 連続するデスクワークなどが イケナイ
 気休めに 湿布薬を出しましょう
整形外科に行くのは 一回でやめました

友人の勧めで 近くで開業中の鍼医の本を読む
内容に納得 ネットで申し込み 鍼治療を予約
一回三〇分 〇・四ミリのステンレス製の鍼を
凝りの強い所に繰り返し 一五〇本刺しては抜く
骨盤に達する 一〇センチの深さまで
四、五日おきに通えば 中程度の傷害だから
三ヶ月で軽快する と先生は言う
私の体は鍼の刺激に強く それほど痛くはない
坐骨神経痛は お尻の筋肉の凝りが原因です
痛みは 危険を脳に伝える電気信号
凝りが増えると 神経は痛みの電気で溢れかえる
信号は坐骨神経に流がれ 痛みで体調も悪化する
坐骨というが 座るためにあるのではない
お尻は 体を動かす駆動機関だ
座りっぱなしや転倒などが お尻の筋肉を凝らせる
はじめのうちは 他の筋肉がカバーしてくれるが 
時間の問題 凝りは増え続け痛みも増幅 継続する

鍼は今までにない外部からの刺激 カラダは
危機を感じ 正常な筋肉組織になるよう指示を出す
筋肉は反応し 凝りが修復され 正常な組織になる
痛みの電気信号は 出なくなる
血液・リンパ液・ホルモンなど体液が通り易くなり 赤ちゃんのような 柔らかい筋肉になる
細胞単位で再生させる外科的鍼治療 と先生は言う

時間もかかるし 毎回一万円の治療費を払う
積年の傷だらけの体に 投資している
診断の通り三ヶ月が経ち 軽快・元気になった



京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

福島の子と   梅津 弘子

福島の子と   梅津 弘子


診療所 歯科医院 開院しました
こども園 学校も 再開してます
ホテル建設の準備 順調

楢葉町の町長 ホームページで
にこやかに 「帰って来て」 と
微笑む

楢葉の子どもたち 校庭でサッカー
除染されているから と
でも 一歩も 山に入れない
食べる物 六年たった今
放射線を測定
友達は 新潟 大阪から戻って来ない
甲状腺ガンに おびえる日々

「神奈川に こらっせ」と
三十人の横浜の学生 カンパを集め
夏 楢葉の子らを呼ぶ
丹沢の山裾の川べりでスイカ割り

キャンプファイア バーベキュウー
蒲鉾工場見学 美味しいね

この交流 六年目
学生も 先輩から 後輩へ
今年も 楢葉の子らは楽しみにしている

楢葉の人
「この国はすぐ忘れる」 嘆く
忘れない 人もいるよ
丹沢の風 森 
待っているよ



京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

新しい年に   児丸 久

新しい年に   児丸 久


なにもない
そんな日があっていい
殺人事件も交通事故も
ましてやミサイルも
テロなどない
そんな日があっていい
テレビは年の始めの
平和な各国の市街を
映像で流し
新聞は新しい年に
誕生した世界の
子どもたちを特集する
そんな日があっていい
今年こそ
夢とか希望ではない
この地球の現実に
そんな日があっていい。


京浜詩派 第220号(2017.129より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

滅亡   久保 淫泉

滅亡   久保 淫泉

滅亡する
人類は滅亡する
物質文明のもたらす利便性を享受する
人類は滅亡する
物質文明のもたらす異常気象により
人類は滅亡する
人類は自ら作り出した兵器で殺し合い
滅亡する
人類は自らつくり出した核兵器を使い
滅亡する

生き物の多様性をうたう人類の作り出す物質文明では人類一種のみが繁栄している
人類のつくり出した物質文明はゾウやライオン シマウマキリン達 野性の生き物に誇れるものなのか
野性の生き物達全員がノーと叫ぶだろう
この星の理から外れ この星を作り変え 都合のよい生き物を家畜化し繁栄する 人類は滅亡する



京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

七夕の日    豊 公子

七夕の日   豊 公子


もしも本当に
核兵器が世界を安全にするものなら
より多くの国が
より多くの核兵器を持てばいいのか?
国連会議でのオーストリアの発言だ

七月七日
国連加盟国の三分の二
一二二の国は
核兵器禁止条約に賛成し採択された
核兵器の開発も実験も生産も使用も
すべて禁止だ
「核抑止力」論も否定
世界の民衆は新しい時代の扉を開けた

Sさんに知らせが届きそうで
七夕の日の採択が嬉しい

昔 Sさんが署名活動
私は協力したのだろうか
Sさんの字はワクからはみ出ていた
コーヒーをはじめて飲んだSさんのお店
Sさんが亡くなって何年になるだろう
運動は七〇年余りもずーっと続いて
七月七日を迎えた

Sさんに報告したい
七夕の日の国連会議でね
核兵器禁止条約が採択されたよって
今日は天の川が見えるといいな

 (ニュース「あつぎ・九条の会」一七年八月号 初出作品)




京浜詩派 第220号(2017.12)より


テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

終末期中期    げん 

終末期中期    げん   


親父が末期ガンを宣告されて
一年が経った
三回の緊急入院 と三回の生還
言葉ではとても言い表せない
いろいろな出来事

誰に向かって
笑っているのかわからない
親父の笑顔
わからない
昨日まで全く別人だった
そんな笑顔に
醒めている自分が怖い

同じ運命を
宿命づけられたとしたら
男の最期は
寂しいものだと
思い知る

だが
それでも
必死な親父を
肯定も出来ず
どうしてもどうにもならず
のたうち回って
ないものを探している


 
京浜詩派 第220号(2019.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

「はやたに丸」    はら きんじ

「はやたに丸」      はら きんじ


「はやたに丸」
木造漁船
船長 H
係留地 藤沢市境川(高級住宅地裏手)

全長一二メートル
二十八馬力焼玉エンジン搭載

使い古した老船だが
船体スリムで足が速い
調子のいい時は
ポンポン乾いた音を響かせ
水すましのように快走する
境川を下り
江の島の片瀬橋をくぐり抜け
相模湾に出て
魚影を求めて遊航する

操船するのはTさん
愛媛の漁師の息子
巧みに船を操る
Yさんが一番早く釣り支度
手早くハリスを結び餌をつける
手持無沙汰なのは「船長」
水面をみつめたり
空を見あげたり
手も竿も遊ばせている
小型船舶操縦免許は持っていても
操舵も駄目 釣りも下手な御仁

TさんもYさんも「船長」も
この老朽漁船の共同出資者
それにもう一人Nさんが加わって
「はやたに丸」は四人の共同持ち船
Nさんは
釣りもしないし
船にも乗らない
楽しみは
釣果を誇る「船長」の法螺話を聞くだけ

この漁船は怪しい船だ
元の持ち主は正体不明のオジサン
お役御免になった老朽船を
密漁船だったから「逃げ足は速いぞ」と
言葉巧みに
不法係留のまま「居抜き」でHに売りつけ
その後まもなく姿を消した
住所職業年齢不詳
話しは抜群に面白い
謎の人物だった

「はやたに丸」は気難しい
不機嫌で 不調で 漁に出ない
そんな日が多い
台風で「沈」も二度三度
「船長」は会社を休み
泥水を汲出し船体を復元する

「船長」H
Yさん
Tさん
Nさん
「企業戦士」と呼ばれた人達だ
高度経済成長時代
長時間労働を
企業が社員に課すための「勲章」
その呼び名が「企業戦士」
過酷な労働と競争の最前線で闘う
労働者のことだ

「船長」Hの勤める会社を
界隈を走るタクシー運転手は
「セブンイレブン」と綽名する
朝七時から夜十一時まで
ビルの窓の灯が消えない

休息と解放を求めて
四人の「企業戦士」が
逃げ出した先が「はやたに丸」
そこで
心の疲れを癒し
人間を取り戻し
明日また競争社会に戻る

「はやたに丸」は
気息奄々の老朽船でよかった
ピカピカのレジャーボートでなくてもよかった
走っても走らなくてもよかった
疲労困憊の「企業戦士」を
黙って受け容れてくれれば
それでよかった

某年某月某日
癒しの船は
馬入川の河口まで曳航され
舫い綱を
無人で太平洋に旅立った

高度経済成長は終わった
競争と便益がすべての社会は続いている

Yさんは他界した
ガンだった
Nさんもひっそり葬られた
脳梗塞だった
Tさんは闘病中
Hもガンを癒している



京浜詩派 第220号(2017.12)より

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