裏岩手連峰縦走 小泉 克弥
1.三ツ石山荘
三ツ石山荘に着いた時は もううす暗くなっていた
ごろんごろんの岩の急坂をやっとの思いで辿り着い
た
幸いにも 小屋には我々三人だけ
遅く着いたので 寝るまでには時間がかかると気にしていたが
自分達だけなので ホッとした
息子たちが炊事の用意で水場行った後
着替えて小屋の玄関ポーチに出てみた
息を飲む満天の星
空の低い所に 北斗七星が寝そべる形で出ていた
上から下へ流れるような形しか知らなかったので驚いた
天の川が濃く まさにミルキーウェイ
流れ星が 一つ二つ流れた
2.岩手山へ
ああ もう足が進まない
坐り込んで 行く手を見上げる
足が痛い 腰が痛いわけではない
気持ちがなえているのだ
体力の限界とはこういうことかと思った
山は歩かなければ目的地に着かない
何時までもへたり込んでいられない
心を奮い立たせて 重く足を運ぶ
ロープにつかまっての急登
なんでこの山はこんなに急な登りばかりなの
ブツクサ心に呟く
それでも五時には岩手山八合目避難小屋に着く
三ツ石山荘出発から一一時間
やっとの思いで辿り着いた
小屋の前には豊富な水場
この冷水で冷麦をキュッとしめて食べたかったのだ
息子たちの若い力のお陰で
重量を気にせず持って来られた
山の冷水で冷え冷えの強い腰
その喉ごしのよさ
おかげで体ごと冷え切ってしまった
長男持参のウイスキーをお湯割りにして
体が温まってくる
チビチビやりながら 三人でこの三日間を振り返る
茶臼口から八幡平―大深岳―三ッ石山―岩手山の
裏岩手連峰縦走も 明日御神坂コースを下って完結
全長 約五〇キロ 山中三泊
去年の八幡平―秋田駒―三国温泉コースを含めて
この山域はほぼ卒業だ
残るは 岩手山の鬼ヶ城コース
いつか網張温泉のリフトを使って辿って見たい
エピローグ 人はなぜ山に登るのか
人はなぜ山に登るのか。この問いに対して、エベレストの初登頂を成し遂げたとされるマロリーは、そこに山があるから、と答えたという。
旅は、非現実への脱出である。現実の生活を離れ、リラックスし、充電する事が、旅の目的である。
しかし、山は、そこに行くとどんな風景が待っているのか、果たしてそこまで自分は辿り着けるかという、好奇心と挑戦の精神である。だから、旅の終わりの日には、ああまた明日から仕事か、という心の負担が待っているのに、山の場合は、次はどこへ行こうという、新しい意欲に満たされる。
年を取ると、体力は衰える。ガイドブックのコースタイムの2倍から3倍の時間がかかる。でも、自分にもこのコースを踏破できるという思いは強い。だから行く気になる。ただ、重い荷物は担げないから、息子という気兼ねのない同行者の支援を頼んで出かかることになる。
老いたる、体力の衰えた親につきあう息子達には、負担の重い役目だ。遅々たる歩みに文句も言わず、しんがりを務めてくれることには、ただただ感謝する。今年は二男も沖縄から参加してくれたので、心強かった。
来年は昔馴染んだ南アルプスを目指したい。 山は標高2800メートルを超えると格段にキツくなる。毎月一度位はトレーニング山行をし、少しは息子の負担を軽くしたい。
京浜詩派 第220号(2017.12)より
テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学