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下げ荷待ち     宮田 京之亮

下げ荷待ち     宮田 京之亮


標高二四五〇m
常念乗越(常念岳と横通岳の鞍部)
二〇一七年五月十三日 八時三十八分

「おめえは、将来何になるつもりだ」
下げ荷回収のヘリコプターを待つ間
鞍部の岩に寝転がったまま彼が言う
「ずっとここで、このまんまか」
空は、槍・穂高連峰の稜線を
くっきりと映し出している
「ここにいても、何にも身に付かねえぞ。
写真が出来るとか、絵が描けるとか。
何か持ってねえとな」
上高地のヘリポートから
彼のケータイ電話にヘリ離陸の知らせ
「やっと来るだか。

小まめにデンワ寄越せばいいだに」
よく晴れた鞍部に
もっこに包まれている下げ荷は
小屋の表玄関に置いていた
空のドラム缶とプロパンガス
ひと冬雪に埋もれてこの高山で過ごし
彼らもやっとヘリで下界へ


京浜詩派 第220号(2017.12)より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

「マニカルニカー・ガート」     宮田 京之亮

「マニカルニカー・ガート」
                    宮田 京之亮


十五分に一体の割合
亡くなった人々の遺体が運ばれて来る
ガンジスに浮かぶ遺骸の灰汁と花輪の中
飲み捨てられたペットボトルも浮かんでいる
黒々とした煤煙に燻されたガート
死を待つ者にだけ開かれた漆黒の河岸で
次々と火の粉を上げて焚き上がる最期の炎

焼け落ちて灰となる肋骨の白
ガクンと剥がれ落ちる女性の片足
眼前、肉体は粉となり
精神は再び、還って行く

すっかり燃え尽きた遺灰の上
消火の聖水がかけられる
ボンッ!と一瞬
灰と共に水蒸気は立ち昇り
その遺灰は、河へと還される

“「ヤージナヴァルキァどの
万物は死の食物でありますが、
死を食物にするような神というのは
何方ですか?」

「死とは火神のことです。
そして火は水の食物です。
かように知る者は
再死を撃攘することができるのです。」”

その一部始終を
足を折って尻尾を振りながら
聖なる牛たちが
ただ穏やかな視線で見守っている

一方、火葬する事の出来ない貧者
あるいは、
修行者と子供の遺骸だけは
橙色の布に包まれたまま
身内二人の男によって
一メートルほどの重石を結わい付けられる

私がさっきまで乗っていた石は
死者と共に連れ立って
舟は沖へと漕ぎ出され
家族が最後の別れに一礼する

本当に
旅立って行く
今生の別れである

瞬く間に
遺骸は河の奥深い所へ還り
舟上の男が
最後の一礼をして
岸へと折り返す

宿への帰り道
おしゃべりなサイクルリクシャーの運転手が
車輪を漕ぎ漕ぎ、身の上を語る
村では、一日三十ルピーしか稼げない
だからバラナシへ出て来たと

「サー(旦那)、このリクシャーは
ボスから一日七十ルピーで借りとるでな。
子供は、五人おるよ!」 

“『生物は生命が去れば死ぬ。
しかし、生命が死ぬのではない』

ウッダーラカ・アールニはまたある時、
息子のシヴェータケートゥに
こう言って伝えたと言う”

        ※引用文は、
       『ウパニシャッド
          佐保田鶴治訳』より




京浜詩派 第219号より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

ハノイ  宮田 京之亮

ハノイ  宮田 京之亮


この街はいつも
煮詰まった単車で溢れ返ったフォーのよう
唐辛子のように紅い布地に星ひとつ
べっとりとベトナム国旗垂れ下がる
細い路地裏の朝でさえも
騒音の群れは果敢に煮詰まって行く
白いアオザイの少女たち
湯気のように笑いたゆたい
辺り一面に立ち込めたかと思うと
海月のようなノンラー 放り投げ
一人一人と、沈黙の海原へと消えて行った

解放戦線、南ベトナム、山岳少数民族
みな田んぼの泥を這うように煮詰められ
湯に飛び込んだ羽虫のように殺されて行った
夕空、畦に刻まれた「自由」
突進する水牛の群れ


水面に滲じむ血液
「支援」国家たちのドミノ遊び


*フォーは、ベトナムの米粉で作った平たい麺
*ノンラーは、ラタニアの葉で作った円錐形の帽子

 

ハノイ  宮田 京之亮  京浜詩派 第218号より

テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

新しい物語  宮田 京之亮

新しい物語 宮田京之亮

新しい物語  宮田京之亮  「京浜詩派 211号」より

テーマ : 詩・ポエム
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