孤愁 佐々木 和善
孤愁 佐々木 和善
私より一〇歳上の 兄がいた
八月五日あの世に旅だった 享年七四
色々あっても 世間なみの暮らしをしていた
独り身になり 青梅に居たとき自転車で
北海道から九州へ あてもない旅に出た
なんで世間が嫌になったのか 判らない
むろん野宿であった
ほどなく長崎で発見され
警察のやっかいになった
愛知県の義兄の所に 電話があり
しばらく姉の夫の元で 厄介になっていたが
半年ぐらいたって 平塚に来てもらった
私もリストラにあい いい潮時と引き取った
五五歳で なんとか職探しに走り廻った
伊勢原の会社へ面接 兄は職にありつけた
ほっとしたある日
自転車で転び打ち所が悪い
頭がおかしくなり 兄は職を失った
年金を もらえる年であった
なんとか暮らしていけると思い
ふるさとの宮城県へ 帰っていった
ほどなく グループホームへ入居
アルツハイマー病 と言われる
九年ぐらいは そこで厄介になり
特別養護老人ホームへ移った
自分がだれで どこにいるかも判らない
兄弟のことも判らない
食事をするのがやっと あとは寝ている
急に 病院に行くことになった
兄はもう長くはない と告げられ
兄は苦しまず 安らかな眠りについた
私も やっと自由になれる
男では 私ひとりになり
まさしく孤愁の身である
京浜詩派 第220号(2017.12)より
私より一〇歳上の 兄がいた
八月五日あの世に旅だった 享年七四
色々あっても 世間なみの暮らしをしていた
独り身になり 青梅に居たとき自転車で
北海道から九州へ あてもない旅に出た
なんで世間が嫌になったのか 判らない
むろん野宿であった
ほどなく長崎で発見され
警察のやっかいになった
愛知県の義兄の所に 電話があり
しばらく姉の夫の元で 厄介になっていたが
半年ぐらいたって 平塚に来てもらった
私もリストラにあい いい潮時と引き取った
五五歳で なんとか職探しに走り廻った
伊勢原の会社へ面接 兄は職にありつけた
ほっとしたある日
自転車で転び打ち所が悪い
頭がおかしくなり 兄は職を失った
年金を もらえる年であった
なんとか暮らしていけると思い
ふるさとの宮城県へ 帰っていった
ほどなく グループホームへ入居
アルツハイマー病 と言われる
九年ぐらいは そこで厄介になり
特別養護老人ホームへ移った
自分がだれで どこにいるかも判らない
兄弟のことも判らない
食事をするのがやっと あとは寝ている
急に 病院に行くことになった
兄はもう長くはない と告げられ
兄は苦しまず 安らかな眠りについた
私も やっと自由になれる
男では 私ひとりになり
まさしく孤愁の身である
京浜詩派 第220号(2017.12)より